2013年1月11日金曜日

Spec Ops: The Line -“選択する”という行為

戦争とは不条理なものだ。純粋な善悪は存在しない。
私達が悪だと思い殺してきた彼等も彼等なりの正義の下に戦っており、彼等にとっては私達が悪なのだ。
果たして自分が行なってきた事は本当に正義であり、正しい事だったのだろうか。
このゲームは嘲笑うかのように問いかける。
「英雄らしい気分にはなってきたか?」

北米で2012年6月26日、日本では8月30日発売。プレイ時間はSteam表記で8.3時間、難易度ハードでキャンペーン一周したのみ、マルチは未プレイ。プレイ環境はPC。
Green Man Gamingで予約購入していたものの、発売日から北米Amazonで半額セールという予約購入者に唾を吐きかける様な事を2Kがしでかしてしまった為プレイする意欲が一気に萎えてしまっていたのだが、Max Payne 3をプレイした後に無性に他のTPSをやりたくなったので本作を起動した。
何と言うか、正直な話、やるならこちらを先にやっておくべきだったなと若干後悔したものの、色々な所で言われている通りストーリーが良かったため結果オーライといった感じだ。


凡庸なゲームプレイの奥に潜む物語の闇


―――『ドバイ』、中東屈指の大都市、巨額の富が動く金融センターとしてだけでなく、世界有数の観光都市としても有名で、近未来を彷彿とさせるような超高層ビルの建ち並ぶ街並みは「中東の宝石」とまで呼ばれるほど―――
そんな栄華を極めた都市ドバイを未曾有の砂嵐が襲う。断続的に発生した砂嵐は街を崩壊させ、周囲との連絡を取ることすら出来ず、ドバイは壊滅状態に陥る。
アメリカ陸軍に所属するジョン・コンラッド大佐が第33部隊を率い、市民救出の任務にあたったのだが、やがて第33部隊は消息不明となり連絡が取れなくなってしまう。
しかしある日、コンラッド大佐からSOSが届く。それを受け、デルタフォースに所属するマーティン・ウォーカー大尉はコンラッド大佐救出の任にあたる事となる。
物語はプレーヤーがこのウォーカー大尉となってドバイの現状、第33部隊の消息、SOSが入るまでの間に何があったのか、何故こういう事態になったのかという発端を探るべくドバイの街に降り立つ所から始まる。


題材としてはよくあるミリタリーものだが、本作はテロリストなり犯罪組織なりを相手にドンパチを繰り広げる他の作品とは少し違う。
明確な敵というものが存在せず、襲い掛かってくる人達が本当に敵なのか判断がつかないままプレーヤーは引き金を引くことになる。
彼らはなぜ襲ってくるのか?その疑問をずっと抱いたまま物語を進めることになるのだ。
もちろん最後には謎が明らかになるし、そこに至るまでの伏線の張り方やストーリーの引っ張り方は見事。
「苦渋の選択」という、プレーヤーの倫理観を問う場面が用意されており、その選択はどれを取っても救いのないようなものばかりで、“選択する”という行為がプレーヤーを苦しめる。
主人公の行動全てが裏目に出て、誰も助からない何のために戦ったのかわからないようなストーリーは、何も考えずに敵を撃ちたいというトリガーハッピーな人には合わないだろう。


ゲームスタイルは「Gears of War」から始まった流行りのカバーシューターであり、本作で特筆すべきところはあまり無い。
一応“巨大な砂嵐に飲まれ、砂漠の海と化したドバイ”が舞台なので、砂をフィーチャーした要素はいくつかあるのだが、ゲームプレイに影響しているとは言い難い。
例えば、敵と対峙している状態で敵の後ろ側に砂で覆われているガラス窓がある場合、そのガラス窓を壊せば溢れでた砂が敵を覆い殺す、という事が出来るのだがガラス窓を壊すのに時間がかかるし弾の消費も激しい。そんなことをするくらいなら敵の頭を狙ったほうが簡単かつ手っ取り早いのである。
しかしGears of Warが発売されてからかなり経っているのに本作の操作性がGears of Warより悪いのはどういうことなのだろうか。カバーをチェンジしようとすると体がはみ出すほどカバー端まで寄らないといけないので敵の攻撃に当たり死ぬこともあるし、しゃがみながらカバーするところでカバーから外れようとしていないのに勝手に立ち上がり、無防備な状態を晒し蜂の巣になることもあり、イライラさせられることもしばしば。
あまり良くない操作性が、後半になった途端急に上がる難易度のせいで際立ってしまっている印象だった。


総評

Spec Ops: The Lineをシューターとして見ると平均点以上をあげる事は出来ないが、アクション・アドベンチャーとして見ると十二分なポテンシャルを発揮する。
昨今マンネリ化しつつあるミリタリーものに一石を投じたこの作品を、苦々しくも心に訴えかけてくる奥深いストーリー、息を呑むような素晴らしい“崩壊したドバイ”を描いたビジュアル共に大人向けのエンターテイメントとして高く評価したい。


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